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名古屋家庭裁判所 平成2年(家)1428号 審判 1990年7月20日

申立人 広田利夫 外3名

相手方 広田恒彦

被相続人 広田すえ

主文

亡広田すえの別紙遺産目録記載の遺産(預金債権)の、それぞれの元利金について申立人ら及び相手方は各5分の1宛を取得する。

理由

1  申立の趣旨及び実情

(1)  被相続人広田すえの遺産について分割を求める。

(2)  被相続人広田すえは昭和63年12月16日死亡した。そして同人の共同相続人は申立人ら4名と相手方の5名であり、その法定相続分は各5分の1宛であって、同人の遺産は別紙遺産目録(編略)記載の預金債権(元利金を含む。以下「本件遺産」または「本件預金債権」という。)である。

申立人らは本件遺産について法定相続分である各5分の1宛を取得することに異議はないが、相手方が分割に応じない。

よって、本件遺産の分割を求める。

2  当裁判所の判断

本件記録によれば、被相続人は昭和63年12月16日に死亡したこと、同人の共同相続人は同人の兄弟姉妹である申立人ら4名と相手方の5名であり、その法定相続分は各5分の1宛であること、被相続人の遺産は別紙遺産目録の遺産であること、以上の事実が認められる。

以上の認定事実によれば本件遺産は金銭債権であるところ、金銭債権は可分債権であるから相続開始と同時に各相続人の法定相続分に従い法律上当然に分割されることになるものである。

したがって、本件のように遺産が預金等の金銭債権である場合には、遺産分割の手続は不要であるはずである。

また、被相続人の遺言がなかったこと、特別受益及び寄与分がいずれもなかったことが記録上明らかである。

しかして本件において、本件預金債権の払戻手続を共同でしようとの申立人らの申入れに相手方は応じようとしなかったと、相手方は本件調停手続に出頭しなかったことが記録上明らかであるが、相手方は本件預金債権が被相続人の遺産であることを積極的に争っていないものと認められる。

ところで、遺産である預金債権等の債務者である銀行等は、共同相続人全員の署名押印のある払戻請求書(そのほかに共同相続人全員の印鑑証明書等の提出も要求される。)の提出がないかぎり、その払戻請求に応じない取扱をしていることは当裁判所に明らかなところである。

したがって一部の共同相続人のこの払戻手続に対する協力が得られない場合には、その他の共同相続人らが銀行等に対して遺産である預金債権の支払いを請求する場合には、当該銀行等に対して、当該預金等の支払いを求める訴訟をすることを強いられる結果となり、預金等を共同相続した一部の相続人がその預金債権を行使しようとする場合には、その相続人に余計な負担をかけることになることが明らかである。

したがってこのような場合には、共同相続人は預金債権が遺産として家庭裁判所に対してその分割手続を求めることができるものと解するのが相当である。

以上の次第で、本件においては、本件遺産(各預金債権について元利合計金額)を各相続人の法定相続分にしたがって、各相続人に取得させる旨の分割の審判をするのが相当である。

よって、主文のとおり審判する。

(家事審判官 高橋爽一郎)

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